高齢者におすすめの杖はこれ!理学療法士が選ぶポイントを解説

「最近、家族が歩いているとつまずくようになってきたけど、杖を使った方がいいのかな?」「杖を使ってほしいけど、どの杖を選んだらいいかわからない……」

自分の家族が年を取ってきたと感じると、上記のような悩みを持つ人もいらっしゃるでしょう。しかし、これまで介護に触れてきた経験がない場合、何から考えたらいいか、わからない人が多いのではないでしょうか?

本記事では、理学療法士である筆者がこれまでの経験をもとに、杖の選び方を解説します。

最後まで読むことで、杖の選び方や使うときの注意点がわかるようになるので、ぜひ参考にしてください。

目次

杖を選ぶ4つのポイント

杖を選ぶポイントは4つあります。けがや病気、加齢による身体的なおとろえもあり、杖を使い始めるタイミングはバラバラ。また、杖はさまざまなパーツからできているため、性能も異なってきます。

ここでは、杖を選ぶときのポイントを解説するので、参考にしてください。

杖本体の材質

杖本体の材質はおおまかに3種類あり、メリットとデメリットは以下の通り。

メリット デメリット
アルミ製腐食しにくい杖によく使われている とくになし

カーボン製
強度が高い軽量地面からの衝撃を吸収高価なものが多い
木製
自然な風合い素材特有のあたたかさ長さを調節するときは、切断しなければいけない
金属製と比べて、耐久性で劣る

杖本体の材質は性能に加え、見た目にこだわる人は注目するポイントです。上記のポイントから判断が難しい場合は、杖の素材として使われることが多い、アルミ製を選んでみましょう。

杖先端の形状

杖先端の形状は3種類あり、メリットとデメリットは以下の通り。

メリット デメリット

吸着型
床面に吸着して固定性が向上し、
すべりにくくなる
濡れた床などでは、吸いついて離れにくくなる

吸着可撓性型
吸着型と同じ杖先端に可動性があるため、
杖を斜めから接地しやすい
吸着型と同じ

イボ型
接地面が広いため、杖を使い慣れていない人には使いやすいイボがすり減ると、すべりやすい

一般的に吸着型が使用されており、さまざまな床面に対して使いやすくなっています。杖先端は付け替えできるものが多いため、目的に合わせて使い分けましょう。

長さ調節機能の有無

杖の支柱は「固定式」「調節式」「収納式」「折りたたみ式」の4種類ありますが、その中で「調節式」のみ長さを調節できます。

杖は、身長に合わせた長さでなければ使いにくいだけでなく、普段から悪い姿勢につながりかねません。

杖を使い始めて長さの調節に問題がなければ、調節式の優先度は低めでも大丈夫でしょう。

高齢者になると身体的な変化が短期間で起きるため、「調節式」の杖を選んでおくと、買いなおしのリスクを下げられます。

握り部の材質

杖の握り部には、「木製」「アクリル製」「ソフトグリップ製」があり、メリット、デメリットは以下の通り。

         メリット    デメリット
   木製よく使用されているため、選べる杖が豊富傷つきやすい
  
  アクリル製
木製よりも強度がある
気象的な影響を受けにくい
汚れにくい
表面がすべりやすいため、
立てかけるのに向いていない

 ソフトグリップ製 
すべりにくいため、立てかけやすい    
手にかかる圧力を吸収する
グリップが太めなため、握りやすい
太いため、握りにくく感じる
こともある

現状手に問題がなければ、選ぶ種類の豊富な木製がおすすめです。杖に耐久性を求めているのであれば、アクリル製を選んでもいいでしょう。杖に体重をかけがちな場合は、ソフトグリップ製だと安心です。

高齢者におすすめな杖の種類

ここでは、日常的に使われている杖の種類について解説していきます。

杖は4種類あり、身体的な状態に応じて使い分けられるのです。

それぞれの杖に特徴があるため、違いを理解してどれが適しているかみてみましょう。

T字杖

一般的に杖としてイメージされる形です。握り部と支柱がT字に見えることから、その名前が付いています。T字杖の特徴と向いている人は、以下の通りです。

      特徴     向いている人
軽量なものが多い
高齢者でも扱いやすい
使い方をイメージしやすい  
歩行バランスが比較的いい人
杖を握る力がある人 
        

T字杖は、杖へ体重をかけて歩くような人にはあまりおすすめできません。比較的自立して歩ける人が、杖を使い始めるときにおすすめです。

多点杖

多点杖は、杖先が3もしくは4点に分かれています。多点杖の特徴と向いている人は、以下の通りです。

             特徴     向いている人
杖先と地面の接地面が広くなるため、杖が自立して立つ 
T字杖と比べて、体重をかけられる
T字杖と比べて、扱いが難しい
杖を地面へ垂直につかなければ、歩きにくくなる
歩行バランスが、一本杖の人よりも
おとろえている人

T字杖と比べて床との接地面が広くなるため、杖に安定性を求めている人は使ってもいいでしょう。ただし、安定性が出るかわりに重くなり、扱いが難しくなる点をお忘れなく。

ロフストランドクラッチ

ロフストランドクラッチは、前腕を支えるカフが付いています。ロフストランドクラッチの特徴と向いている人は、以下の通りです。

           特徴      向いている人
前腕を支えるカフがあることで、杖を握る力に
  自信がなくても使用できる
前腕を固定することで、歩くときの肘伸展を補助する
前腕カフがあることで、握り部から手を離しても、
 ドアノブなどの操作ができる
握力が弱い人
下肢へ体重をあまりかけられない人

ロフストランドクラッチは日常的に見かけず扱いにくそうですが、機能を理解すると便利な杖となっています。他の杖と比べて、慣れるまでに時間がかかるので、実用化するまでに練習するのがおすすめです。

2本杖

2本杖は、縦になっているグリップを握り、交互に杖を振り出しながら歩ける杖です。2本杖の特徴と向いている人は、以下の通り。

         特徴         向いている人
両手で杖を持つことで、歩行時の姿勢が
  左右均等となり、身体のバランスを維持する
身体への負担を減らす
一本杖で歩けて、猫背などの姿勢を気にする人
握力が弱い人
手首に力が入りにくい人

最近はウォーキングする人が使うなど、活躍の場が広がってきている杖です。杖のイメージは1本ですが、そのときに生じる体の傾きや、筋肉の片側使用による姿勢の変化を予防できる杖となっています。

高齢者はこういう状態に要注意!杖を使い始める目安

高齢者が杖を使い始める目安となるタイミングは、転倒リスクが出始めたときです。

もともと杖を使う習慣の無い人からすると、杖歩行を身につけるまでに時間がかかります。杖の導入をためらい、転倒リスクが高い状態で杖歩行を身につけようとすると、さらに時間がかかるでしょう。場合によっては、転倒リスクがある状態で杖を使わずにいると、実は歩行器や車椅子を使うのが適切だったなんてこともあります。

以下のチェックリストを参考に、転倒リスクがどの程度あるか確認してください。

参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/48/1/48_1_33/_pdf

6項目以上当てはまると転倒リスクが高い状態と判断されるので、杖の使用を検討しましょう。

杖を使うときに知っておいた方がいいこと4選

杖を使い始めるにあたって、知っておいた方がいいことを4選紹介します。

「杖を買ったのはいいけど、そのまま使い始めてもいいのかな?」と気になっている人は多いはず。

しかし、杖に馴染みのない人からすると、気にすべき点がわからないため、見よう見まねでしか使えなくなります。

ここでは、杖を使うとき知っておいた方がいいことを、解説していくので参考にしてください。

杖の高さ調節方法

杖を買ったら、その人にあった杖の高さにしましょう。

杖の高さ調節方法は、以下の3つです。

① 杖をつく側の肘を30°程曲げる。同じ側足の爪先から、外側と前方それぞれ15cm離れたところ

  に、杖先を持ってくる。

 杖をつく側の大転子(股関節の外側にある骨の出っ張り)に、握り部を合わせる。

 杖をつく側の茎状突起(手首にある出っ張り)に、握り部を合わせる。

        

参考:https://www.yurin.or.jp/rehabilitation/blog/?id=8609

杖を使った歩き方

杖は、基本的に足の状態が良い方の手で持ちます。足の状態に左右差がなければ、利き手で杖を持ちましょう。

歩き方は、2動作歩行と3動作歩行に分けられ、方法とおすすめする人は以下の通りです。

        方法  こういう人におすすめ
2動作歩行 杖と状態が悪い方の足を同時に踏み出し、
状態が良い方の足と交互に踏み出す
状態が悪い方の足へ
体重をかけながら歩ける人
3動作歩行杖、状態が悪い方の足、状態がいい方の足
の順番で足を踏み出す
状態が悪い方の足へ
体重をかけるのに不安がある人

高齢者になるほど、3動作歩行で混乱することがあるので、2動作歩行から試してみるのがおすすめです。

杖の付属品でより使いやすくなる

杖をより使いやすくするために、付属品があります。

杖を使い始めるまで、どのような不便があるか想像しにくいでしょう。

ここでは、理学療法士として筆者が働いている現場で、実際に使っている人からの声をもとに、おすすめの付属品を紹介します。

【杖ホルダー】

杖を机にひっかけることで、杖が倒れにくくする付属品です。

使い方は、杖ホルダーを直接杖に取り付けて、レバーを上げて机にひっかけます。

レバーの裏面にすべり止めグリップがあるため、より倒れにくいです。

【杖用ストラップ】

杖に取り付けたストラップを、手首に巻きながら歩くために使います。ストラップがあることで、歩行中に思わぬところで杖を手放しても、杖を落とすことはありません。

床に落ちているものを、拾おうとして転倒することは、高齢者が転倒する場面で、よくあります。しかし、杖ストラップを付けていると、不意に杖を手放すことが減り、転倒リスク軽減できるのでおすすめです。

杖の入手場所

杖は福祉用具の業者やネット通販から取り寄せるのがおすすめです。介護用品がホームセンターなどでみられるようになっていますが、選べるほどのバリエーションはありません。

カタログやネットで商品を選択し、数日後自宅に届きます。介護用品を取り扱っている業者であるため、その場で専門的なアドバイスを聞けるのもおすすめな理由です。

また、さまざまな杖を試してみたいという方は、杖のレンタルをおすすめします。レンタルには介護保険を必要としますが、月々数百円ほどで杖が使えるので経済的です。もし、レンタルしている杖が合わないと感じたら、他の杖に変更できます。

杖を使用していくうえでの注意点

杖を入手し使い慣れてきたら、杖を使用していくうえで注意すべきポイントをみていきましょう。

なぜなら、丈夫に設計されている杖でも消耗品であるため、いずれ破損するからです。

杖先端のすり減り

杖先端の素材はほとんどがゴム製で、使い続けていくと徐々にすり減ってきます。杖先端がすり減ると杖のつき方がいつもと変わり、転倒リスクにつながりかねません。

また、杖先端がすり減ると地面からの衝撃を吸収しきれず、体への負担にもなるため注意が必要です。杖先端の素材がすり減ってきたら、先端部の交換を検討しましょう。

杖を握る手の痛み

杖を握る手に痛みが出始めたら、杖の使い方を見直してみましょう。杖はあくまでも歩行補助具であるため、体重をかけすぎてしまうと手に痛みが生じます。

杖の使い始めと比べて体重をかけすぎてきたと感じたら、杖の高さを再調節しましょう。

握り部のカバーには、クッション性のあるものを付けるのもおすすめです。

使用者の身体的変化

杖を使うときには、身体的な変化にも注意が必要です。年を取ると筋力がおとろえていき、徐々に背中が曲がっていきます。すると、適切な杖の高さが使い始めたときと変わってくることも。

また、転倒したり病気を患ったりすると歩行状態が不安定になるため、歩行補助具を再検討する必要があります。

杖を使うなら早めがおすすめ!自分の足で歩いてもらいましょう!

本記事では杖の選び方から使い方までを紹介してきました。以下の手順で杖を選ぶと、合ったものを探しやすくなります。

  1. 杖を使おうとしている人は、現状どれほど歩けるのか把握する。

(転倒リスクのチェックリストを参考にする)

  1. その人の身体レベルに合った杖を選ぶ。

(一本杖、多点杖、ロフストランドクラッチ、2本杖から選ぶ)

  1. 杖を選ぶ4つのポイントを参考にする。

(杖本体の材質、杖先端の形状、長さ調節機能の有無、握り部の材質)

また、杖を使い続けていくのであれば、以下の点にも注意していきましょう。

  • 杖先端がすり減っていると、歩行時のバランス不良につながる。
  • 杖を握る手が痛み出したら、杖の使い方を見直す。もしくは、握り部の素材を変更する。
  • 身体的な変化に合わせて、杖の調節や他の杖を使う。

「杖があることで、今まで通り歩けるようになった!」というケースはよくあります。杖を使ってもらうかどうか迷っていたら、本記事を参考に選んでみてください。

そして、できるだけ長く自分の足で歩いてもらいましょう!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次