社会の流れや将来性を考え、就職先の候補としてシステム開発に携われる「SIer業界」に興味を持つ方もいるでしょう。
しかし、就活生の中には、以下のような悩みが出てくることも。
本記事では、SIerの「業務内容」や「種類」「新卒でSIerに就職するメリット・デメリット」を紹介します。
また、企業選びに苦戦している方向けに、現役SEの筆者が考える「新卒がSIer企業を選ぶ際のポイント」もあわせて紹介!
SIer業界に興味がある方はぜひ最後まで読んで就活を有利に進めましょう!
Slerとは?業務内容を工程別に解説
SIerとは「システムインテグレーター」の略です。
顧客企業から依頼を受けて、システム開発の全工程を一気通貫で請け負う企業のことを指します。
今回は、工程別にSIerの業務内容を見ていきましょう!
上流工程①|要件定義
要件定義は、顧客要望をヒアリングする工程。
システムに必要な機能や性能を整理後、要件として定義し、顧客と合意することがゴールです。
具体的には以下の3つを明確にする必要があります。
- システム化の目的:顧客にどのような課題があり、何を解決させたいか
- システム概要:課題を解決させるためにどのようなシステムが必要か
- 機能・非機能の要件:システムに実装する機能と性能、セキュリティ事項をどうするか
また、要件定義の段階で見積もりを出すため、顧客の予算との兼ね合いも考えながらシステム要件を決める必要があり、要件の整理に時間がかかることも少なくありません。
要件定義はシステム開発全体の方針となるため、この工程で顧客が求めるものをしっかりと聞き出し、整理することがシステム開発の成功に必要不可欠です。
上流工程②|設計
設計工程は、システムの機能・性能を具体化する工程で「外部設計」と「内部設計」の2つの工程があります。
外部設計では、ユーザの目に見える範囲を対象に、システムを動かす部分の仕様を決めます。「システム概要図」「機能一覧」「各機能の動作概要」「シーケンス図」「画面一覧」「画面設計書」などがアウトプットです。
作成したアウトプットは、後工程のインプットとなるため、顧客が求めるものとずれがないか、顧客と一緒に確認します。
内部設計では、外部設計で作成した各設計書をもとに、実際にプログラマーが製造できるレベルにまで詳細化します。
システム内部のユーザの目に見えない範囲が対象となるため、基本的には顧客レビューをしません。
設計工程で作成した設計書は、下流工程の指標となるため開発の中でも1番重要な工程といえます!
製造が開始されてから問題が見つかり設計からやり直しとなると予定外の時間がかかり、スケジュール遅延になりかねませんので、顧客要件を確実に反映させた確度の高い設計が必要です。
下流工程①|製造
製造工程は各機能を実際に動かすプログラムを作る工程です。
プログラマーがプログラミング言語を用いて1つ1つのコードを書いていきます。
コードとは「コンピュータに対し命令を与えるためのデータ」のこと。
製造工程は多くの時間と人員リソースが必要です。実際の開発では、すべての機能部に関わる人は少なく、機能毎に分担して進めます。
また、複数人で同じシステムのコードを書くことになるため、開発全体で定められたコード規約・設計書の仕様に沿ったコーディングを徹底することが求められます。
大規模開発であればあるほど複数のプログラマーで協業していくことになるため、読みやすいコードをかけるかプログラマーのプログラミングスキルが試されるでしょう。
下流工程②|テスト
テスト工程は、製造されたシステムが仕様通りに動くかをチェックする工程です。
「単体テスト」「結合テスト」「総合テスト」「受入テスト」の4種類のテストを実施します。
- 単体テスト:1つの機能・画面に閉じて動作検証
- 結合テスト:1対1で他機能と連携させて動作検証
- 総合テスト:運用を想定し、すべての機能部を連携させ、システム全体を動作検証
- 受入テスト:顧客への納品前に仕様通りに動作するか最終チェック
テスト工程では必ずバグが出ます。バグは0=品質が良いということではなく、テストでバグを見つけ改修させることで品質を向上させていくイメージです。
顧客への納品後にバグが見つかると大問題になりかねないため、早期にバグを見つけバグ0の状態で納品することが求められます。
下流工程③|運用保守
運用保守は、システム納品後のアフターケアの工程。
顧客に納品後、商用で使われるシステムを維持管理することで、安定して使い続けてもらうことが運用保守の目的です。
運用部隊は、日々システムの動作や利用状況を監視し、問題発生時に迅速に対応します。
顧客からの問い合わせ対応も日々発生するため、顧客と接する機会の多さが特徴です。
一方、保守部隊は問題発生時に問題箇所や影響範囲を特定し、システムの復旧までを担当します。
問題発生時以外はセキュリティ強化のためのソフトウェアアップデートや、バグ修正のためのデータ適応など、システムのメンテナンスがメインです。
顧客に納品したシステムを安定的に使い続けてもらうためも、運用保守は縁の下の力持ちとして必要不可欠な存在といえるでしょう。
新卒でSlerはやめたほうがいいって本当?
SIerに興味を持ち情報収集のため、ネット等でSIerと検索してみると「Slerはやめとけ」の文字が出てきて不安に思っている方もいるでしょう。
「SIerはやめとけ」と言われる理由は、業界特有の「多重下請け構造」にあります。
多重下請け構造とは、顧客から元請けに委託された業務が、2次請け、3次受け、4次受けと何層にもわたって再委託される構造のこと。
階層が深くなればなるほど、労働環境や収入の条件面で悪くなる傾向があります。
また、システムを使う顧客と直接接点を持てないことから、モチベーションが保てなくなるのもやめとけと言われる理由の1つかもしれません。
自分の目指す企業が業界構造のどこに位置する企業かは、事前にチェックするようにしましょう。
【SIerの種類と強み】3つの種類から徹底解説
SIerは、企業の成り立ちによって大きく3種類に分けられます。
今回は、以下の順にそれぞれの生い立ちや特徴・強みを解説します!
メーカー系|親会社がハードウェアメーカー
大規模案件で開発経験を積みたい方にはメーカー系がおすすめです。
メーカー系SIerとは、PCやサーバ、ネットワーク機器などを製造しているメーカーの情報システム部が親会社から独立する形でできた企業のこと。
そのため、親会社のハードウェアと組み合わせたソリューションを提案できるのが最大の強みです。顧客課題にあわせてハードウェアからソフトウェアまで、トータルサポートできます。
また、親会社のメーカーは大手企業である場合が多く、親会社が受注した規模の大きいプロジェクトに参加し仕事をする機会も多いため、大規模開発を経験できるでしょう。
- 富士通エフサス
- 富士通ネットワークソリューションズ
- 日立ソリューションズ
- 日立システムズ
- NECソリューションイノベータ
- NECネッツエスアイ
メーカー系SIerに興味を持った方は参考に選考を受けてみましょう!
ユーザー系|親会社が一般企業
ワークライフバランス重視の方にはユーザー系がおすすめ。
ユーザー系SIerは、商社・金融・製造業などITと関係がない企業のシステム開発部門が子会社化されてできた企業です。
親会社は大手企業であることが多く、福利厚生が整っており、コンプライアンス意識も高いためワークライフバランスを保ちやすいでしょう。
働き方としては、親会社が使用するシステムを開発するケースが大半なものの、システム開発のノウハウを活かして外販するケースもあります。
ちなみに外販の場合はお客さん先に常駐して開発を進めるケースが多いです。
また、ユーザー系SIerはシステム開発の上流工程から担当することが多いため、担当業界の業界知識やスキルを身につけられることが強み!
業界知識を活かして他業界に転職する方もいます。
- NTTデータ
- 伊藤忠テクノソリューションズ
- SCSK
- 野村総合研究所
ユーザー系SIerに興味がある方は参考に選考を受けてみましょう!
独立系|親会社なし
業界・業種を問わずさまざまな案件に関わりたい方には独立系がおすすめです。
独立系SIerとは、親会社を持たずに単独でシステム開発を受注している企業のこと。
メーカー系やユーザー系と比べて自由度が高く、親会社がない分、ハードウェア、ソフトウェアに縛りがないため顧客ごとに最適なソリューションを提案できることが強みです。
また、業界にとらわれず多種多様な企業空案件を受注する傾向があるため、その分経験できる領域も広いでしょう。
成果主義の風潮もあり、バリバリ働いてスキルアップを目指したいという方にはおすすめです。
- シンプレクス・ホールディングス
- オービック
- 大塚商会
- TIS
独立系SIerに興味がある方は参考に選考を受けてみましょう!
新卒でSIerに就職するメリット
初めての就活で「本当にSIer企業で良いのか」と迷いが生じている方もいるでしょう。
実際に働くまではなかなか実態が見えないため不安になりますよね。
SIer企業に現役で働く筆者が思うSIerのメリットを2つ紹介します。
社会への影響度が大きいシステム開発に関われる
SIerは顧客が大手企業や官公庁であることが多いため、社会への影響度において大きい仕事を任せられます。
官公庁であれば年金システムやマイナンバーシステム、銀行であればネットバンキングシステムや口座情報管理システム、小売であればPOSシステムなど社会で必要不可欠なシステムの開発に関わることもできるでしょう。
また、大規模開発の場合は社内外の関係者が多く、顧客や社内部署または協力会社など、各方面の方と意識合わせや調整をしながら仕事を勧めていくことが必須です。
そのため、ITスキル以外に、社会人としての基礎スキルであるコミュニケーション力や調整力もしっかり身につけられるでしょう。
就活の軸として「社会への影響度」を大切にしている方、社会人の基礎スキルを身に着けたい方にはSIerをおすすめします!
基本的な開発手法を学べる
SIerはシステム開発の全ての工程を担当するため、基本的な開発手法を若手のうちに身につけられます。
システム開発のサイクルは「3ヶ月」「半年」「1年」など案件によりますが、仮に3ヶ月スパンの開発に参加する場合は、新卒でも1年で4回ほど開発の一連の流れを経験できるため、基本的な開発手法は1年目から習得できるでしょう。
大手SIerでは、上流工程に力を入れている部署でも、新卒にはOJTとしてスキルアップのために製造・テスト工程を積極的に経験させる傾向があります。
OJTとは「職場内訓練」のこと。実務を通して知識やスキルが学べるため、若手のうちから開発手法を身につけることができます。
基本的な開発手法を習得できていれば、転職の道も広がるため、SIer企業で基本スキルを習得しましょう!
新卒でSIerに就職するデメリット
メリットを知った次はデメリットが気になりますよね。
実際にSIer企業で働く筆者が思うSIerのデメリットを2つ紹介します。
自社サービスの開発はできない
「まだ世の中にない新しいサービスを作りたい!」「自社サービスを開発して売りたい!」という人は注意が必要です。
というのも、SIerは顧客から依頼を受けてシステム開発を請け負う企業であるため、何を作るかは顧客次第となり、開発したシステムは顧客に提供することになります。
そのため、基本的に自社サービスを作ることはできません。
一方、Web系企業は自社でどのようなサービスを作るか決め、作った自社サービスを販売するビジネスモデルです。
新しいサービスを生み出したいという方は「Webエンジニア」や「Webデザイナー」などWeb系企業を見てみると良いでしょう。
プログラミングスキルが身につきにくい
大手SIerではプログラミングスキルが身につきにくい傾向があります。
理由は「SIer業界特有の多重下請け構造」。
大手SIerは上流工程を担当し、製造やテストなどの下流工程は下請け会社に任せて開発管理に回ることが多いです。
そのため、SIer業界で働く人の中には新卒の研修で経験したきり、実務でプログラミングをしていないという人も少なくありません。
技術者としてプログラミングスキルを磨きたいという方は、SIerの中でも自社で下流工程まで担当している企業を探すのがおすすめです。
現役SEがチェック!新卒がSIer企業を選ぶ際のポイント
SIer企業といっても多くの企業があり、「自分に合う企業はどれか」企業選びのポイントが知りたいという方もいるでしょう。
現役SEの筆者が、就活時に見ていたポイント、実際に働いてみて気づいたポイントを以下の順で2つ紹介します。
社風が自分に合いそうか
筆者が就活時に重視していたポイントは「社風」です。
社風とは、企業が長年培ってきた価値観や空気感、文化のこと。
どれだけやりたい仕事に関われたとしても、日々関わる会社人間関係が良くないとストレスになってしまい、早期離職を考え始める人も少なくありません。
仕事の充実度は、日々関わる人によって決まると言っても過言ではないため、社風が自分に合いそうかは就活時にチェックしておきましょう。
社風を確かめるには、会社説明会やインターン以外にOB訪問がおすすめです。
筆者は、MatcherというOB訪問ができる就活相談アプリを使っていました!
Matcherは大学に関係なく40,000人の社会人にOB訪問できるアプリで、300,000件を超えるレビューが掲載されているため安心して利用できます。
気になる会社の社員に実際に会ってみることで、現場で実際に働く社員の生の声が聞けるため、より深い情報を知れるでしょう!
育成・研修制度が充実しているか
筆者が実際にSIer企業で働いてみて気づいたポイントは「育成・研修制度が充実しているか」ということ。
システム開発未経験者にとって、独学でスキルを身につけることはハードルが高いですよね。
SIer企業では、新卒だと入社後3ヶ月〜半年の研修を設けていることが多いです。
研修期間では、社会人のビジネスマナー以外に、基本情報技術者試験レベルのIT知識を学ぶ講座や要件定義からテスト工程までの一連の流れを学べるシステム開発演習などを実施している会社もあります。
研修期間でシステム開発の基礎知識を習得してから、現場に配属されることで段階を踏んで開発スキルを身につけられるでしょう。
また、会社によっては新卒から2年間を育成期間とし、メンター制度を設けています。
システム開発に関しての豊富な知識と業務スキルを持った先輩社員が個別サポートしてくれるため、未経験者でも安心して仕事ができるでしょう。
未経験でシステム開発に興味がある人は、気になる会社がどのような育成・研修制度を設けているか確認してくださいね!
第二新卒はSlerに受かりやすい?
終身雇用制度の見直しや働き方への意識変化によって、転職が当たり前になっている時代。
新卒入社から2〜3年は「第二新卒」として就活できることもあり、転職を考える人が増える時期です。第二新卒でSIer企業への転職はできるのか気になっている方もいるでしょう。
情報化が進む社会では、ITニーズの拡大によりIT人材不足が懸念されています。
それに加え、現役エンジニアの高齢化が進んでいることもあり、エンジニア人材の需要は高まるばかり。
そのため、第二新卒でSIer企業に転職できる可能性は高い傾向にあるといえるでしょう。
大手SIerでも毎年、第二新卒の募集をしている企業もあり、現職で身につけたスキルや経験をアピールすることで転職できるチャンスは十分にあります。
第二新卒でのキャリアアップを目指すためにも、新卒のうちからシステム開発の基本知識や開発手法をしっかり身につけることが大切です。
まとめ|新卒でSIer就職するメリット・デメリットを理解し就活を有利に進めよう!
社会に出る期待と不安の中で、自力で進めていかなければならない就活。
業界決めから企業選び、自己分析などやることが多く気疲れしてしまうこともありますよね。特にSIer業界は仕事のイメージがなかなか持てず、情報収集に苦戦することもあるでしょう。
今回は、「SIerの業務内容」や「SIerの種類と強み」「新卒でSIerに就職するメリット・デメリット」「新卒がSIer企業を選ぶ際のポイント」を紹介しました。
SIer業界に興味がある方は本記事を参考に情報収集を進め、内定を勝ち取りましょう!
本記事があなたの就活の一助になれば幸いです。